クラシックスタイル入門 スーツの着こなし④

ファッション

~ ディテールを知

ベントについて

今回はスーツのディテールについてお話ししようと思います。スーツは細かいディテールにこだわるのではなく、全体の雰囲気が最も重要ですが、これから興味を持って頂くにつれて、関心が高まる部分ですので、楽しみながら読んで頂くと幸いです。

落合正勝著:男の服装術より

スーツの上着の裾の切り込みを「ベント」と呼びます。
写真 上段のモデルはお尻の両サイドに切り込みがあり、これを「サイドベンツ」と呼び、英国スタイルの印象が強いです。
中段の真ん中の切り込みは「センターベント(ツ)」と呼び、アメリカンスタイルに多いですね。
下段の切り込みなしは、「ノーベント」と呼び、タキシードやディレクタースーツなどには、ベントがありません。

私も通常のスーツはサイドベンツを愛用していますが、ブラックスーツに関してはノーベントでオーダーしました。

もともとベントの役割は、兵隊が馬に乗って進行するとき動きやすくするために考案されたと言われています。

ベントは写真よりも図の方が分かりやすいため、落合正勝著:「男の服装術」より引用させて頂きました。

袖口について

本切羽:ボタンホールを開け、袖口が開く仕様

続きまして袖口のお話しです。
左の写真は袖口が開いていますね。またボタンホールも空いています。この袖口が開く仕様のことを「本切羽」(ほんせっぱ)と言います。
オーダースーツではよくありますが、既製服でも袖の長さを調整する際に、この仕様にできる場合があります。
ただ、本切羽にしてしまうと、その後の袖の調整ができなくなるといったデメリットも生じます。
その際は、ボタンホールを袖先から3個までに留めておき、4個目は糸かがりだけにしておくと、後ほどボタン1個分だけ袖を伸ばせることになります。

4個のボタンを少し重ねて取付け、あえて1個外している

次は本切羽を閉じた時の写真です。
クラシックなスーツの袖口のボタンは4個が基本です。でも写真では3個しか映っていませんね。
その人に「ボタン外れてますよ!」と教えたい気もしますが、あえて1個(または2個)ボタンを外しているのです。そういう着こなしもあるんですね。
(ボタンはちゃんと4個付いている)
また好みによって、ボタンを少し重ねたり、重ねずくっつけたり、ボタンの重なりを袖先側に向けたりと楽しんでいらっしゃる方もいます。

生地のタグ

お店に行って スーツやコートを見ていると、袖口にタグが付いていますよね。
電車に乗っていると、たまに そのままの状態で着用している人を見かけます。
はい。そのタグはすぐに取りましょう!
そのタグはその商品で使われている生地のメーカーや産地、クオリティの紹介の意味合いですので、着用前には外しておくのが正解です。
余談ではありますが、袖口にボタンが付けられたのは、ナポレオンがロシアに侵攻した際に、あまりの寒さに兵隊が鼻水を袖先で拭ったのを、止めさせるという説が有力となっています。

ステッチについて

スーツやシャツの襟や袖にはステッチが施されている場合があります。今回はその傾向についてお話しします。

スーツの胸元
ジャケットの胸元

左の2枚の写真はスーツとジャケットの胸元を拡大したものです。
ラペルのフチにステッチが施されているのがお分かり頂けるでしょうか。
スーツはフチから約1.5mm
ジャケットはフチから約8mmでした。
これはフチに近く、ステッチが繊細であるほど、フォーマル度が高くなる傾向にあります。

シャツ 襟元
シャツ 袖口

シャツにも同じようにステッチが施されていますね。
これはフチから 9mmでした。
私がダブルカフスのシャツをオーダーした際は、より上品に仕上げたかったため、上記のスーツと同様に、フチから 1mm程度のところにステッチを入れてもらいました。

ステッチはスーツやシャツだけでなく、ベルト、時計のベルト、バッグ などにも共通しています。
カジュアル感が強くなると、フチからの距離が多きくなり、ステッチの糸も太くなる傾向があります。

パンツについて

パンツのことをトラウザーズ(Trousers)と表現することがあります。細かいディテールやニュアンスの違いがあるかもしれませんが、一般的に パンツ(Pants)はアメリカ英語、トラウザーズ(Trousers)はイギリス英語の表現となります。イギリスでパンツは下着を表します。
ちなみにズボンはフランス語の「Jupon」からきているようです。

クラシックな装いにおけるパンツの裾はダブルで仕上げます。私の場合 4.0~4.5cm程度にしています。
パンツの丈の長さは、パンツが細くなると丈は短くなり、ダブルの幅も狭くなります。逆に太くなると丈は長くなり、ダブルの幅も広くなります。また身長が高くなるにつれてダブルの幅は広くなってきます。
ここは店員さんと相談しながらバランスをとっていきます。

ちなみに正礼装などでは裾はシングルで「モーニングカット」で仕上げます。
モーニングカットとは裾の前が短く、背中側が2cm程度長く仕上げることで、裾のだぶつきも無くパンツのシルエットが美しく見えるのです。

私も冠婚葬祭用のブラックスーツはモーニングカットで仕上げています。

クラシックスーツ 裾ダブル
ディレクターズスーツ 裾シングル

オーダーするということ

私はスーツをオーダーしていますが、メリットもあればデメリットもあります。今日はそこをお伝えしますね。

<メリット>
・自分のジャストサイズに合わせられる
・生地、ボタン、裏地を選べる
・細かいディテールを指定できる
・店員さんとのやりとりが楽しい
・知識が増え勉強になる
・美しく仕上がり、周りから褒めてもらえる

<デメリット>
・高価になる
・出来上がりがイメージと違う場合がある
・時間が掛かる

思いつく項目は以上でしょうか。深く考えるとまだあるかもしれません。

オーダーの魅力は何より、自分の身体にフィットしたスーツを着れるという点にあります。もちろん既製服を購入することもありますが、その時でも袖の長さはもちろんのこと、ウエストの絞りや時には着丈の長さまで補正することがあります。ウエストにしろ着丈にしろ、たった1cmでも印象は変わります。そのくらいシビアなのです。
また生地も素材感や色味、光沢などを選べるのがメリットでもありますし、楽しみでもあります。
その一方で、ディテールの指定はほとんど行いません。既製服とほぼ同じです。要は奇を衒わず自分の身体に合った服を追求するといった感じです。またオーダーはお店の方とのディスカッションで成り立っており、意思疎通や知識を享受して頂けるなど、とても楽しく大切な時間となっております。
それで自分の理想通りの服が出来上がってくると、とても嬉しく幸せな気持ちになります。そういった服を着ている時は、周りの人から良く褒めて頂けます。それは身体にフィットし、良い雰囲気を醸し出せているのでしょう。
もうかれこれ20年以上通い、綺麗にスーツを作って頂いているテーラーにはとても感謝しています。

その一方でデメリットも存在します。それは出来上がりのイメージが違う場合があるということです。これには2パターンあります。まず自分の思い違い。例えば生地の光沢感などは小さな生地見本ではイメージを想像するのが難しく、出来上がったものを見て、イメージより明るかった。光沢が強かったなどの違いが出てくるときがあります。

オーダーした靴

次に2つ目は、自分と店員さんとのイメージの違いです。オーダーは自分のイメージと店員さんのイメージを合致させることが非常に重要であり、いかに自分の想いを上手に伝えるかが大切となってきます。
この2つは初めから上手にできる訳でもありません。経験を重ねることで自分の力量も上がりますし、お店との関わり方も学んでゆくことになります。
オーダーはスーツに限らずシャツや靴にもおよびます。そういった経験を積むことで自分の知識も増え、スーツスタイルに対する気持ちや着こなしの向上にも繋がってゆきます。

以上 今回はスーツの着こなしにおける、少し細かい部分までお話ししました。このような知識が、直接 見た目に反映されることは少ないかもしれません。しかしスーツに興味を持ち始め、少しずつ学んでゆくなかでは、通る道だと思っています。

「クラシックスタイル入門」シリーズはコチラ
 スーツの着こなし① 意識で印象が変わる
 スーツの着こなし② 美しく見えるポイント
 スーツの着こなし③ アイテムの選び方
 スーツの着こなし④ ディテールを知る
 スーツの着こなし⑤ 投資すべき優先順位
 スーツの着こなし⑥ 上手なつきあい方

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